ウォリスの公式
命題
次の等式が成り立つ。
$$ \prod_{n=1}^{\infty}{\frac{4n^2}{4n^2-1}} = \frac{\pi}{2} $$
別の形式
この式は次のように書くこともできる。
左辺を因数分解すると、
$$ \prod_{n=1}^{\infty}{\frac{2n}{2n+1} \cdot \frac{2n}{2n-1}} = \frac{\pi}{2} $$
二重階乗を使うと、
$$ \lim_{n \to \infty}{\frac{(2n)!!}{(2n+1)!!} \frac{(2n)!!}{(2n-1)!!}} = \frac{\pi}{2} $$
逆数を取ると、
$$ \prod_{n=1}^{\infty}{\left(1 - \frac{1}{(2n)^2}\right)} = \frac{2}{\pi} $$
二重階乗の形式を変形すると、
$$ \lim_{n \to \infty}{\left(\frac{(2n)!!}{(2n+1)!!}\right)^2 (2n+1)} = \frac{\pi}{2} $$
両辺の平方根を取って、
$$ \lim_{n \to \infty}{\frac{(2n)!!}{(2n+1)!!} \sqrt{2n+1}} = \sqrt{\frac{\pi}{2}} $$
左辺に$(2n)!!$を乗じると、
$$ \lim_{n \to \infty}{\frac{\{(2n)!!\}^2}{(2n+1)!} \sqrt{2n+1}} = \lim_{n \to \infty}{\frac{\{(2n)!!\}^2}{\sqrt{2n+1}(2n)!}} = \lim_{n \to \infty}{\frac{(2^n n!)^2}{\sqrt{2n+1}(2n)!}} = \sqrt{\frac{\pi}{2}} $$
$\frac{\sqrt{2n+1}}{\sqrt{2n}} \to 1$だから、
$$ \lim_{n \to \infty}{\frac{2^{2n} (n!)^2}{\sqrt{n} (2n)!}} = \sqrt{\pi} $$
この形式も非常によく使われる。
さらに、$\frac{(2n)!}{(n!)^2}$は、$2n$個の中から$n$個を選ぶ組み合わせ(combination)の数 $\binom{2n}{n}$なので、$n$が十分大きいときに、
$$ \binom{2n}{n} \sim \frac{2^{2n}}{\sqrt{n \pi}} $$
という漸近があるという風にも読める。
正弦関数の因数分解による証明
バーゼル問題 でみたが、正弦関数は形式的に次のように因数分解される。
$$ \sin{x} = x (1 - \frac{x^2}{\pi^2}) (1 - \frac{x^2}{2^2\pi^2}) … (1 - \frac{x^2}{n^2\pi^2}) … $$
$x = \frac{\pi}{2}$を代入すると、
$$ \sin{\frac{\pi}{2}} = \frac{\pi}{2} (1 - \frac{(\frac{\pi}{2})^2}{\pi^2}) (1 - \frac{(\frac{\pi}{2})^2}{2^2\pi^2}) … (1 - \frac{(\frac{\pi}{2})^2}{n^2\pi^2}) … $$
$$ 1 = \frac{\pi}{2} (1 - \frac{1}{2^2}) (1 - \frac{1}{2^2 2^2}) … (1 - \frac{1}{2^2 n^2}) … $$
両辺に$\frac{2}{\pi}$を乗じると、
$$ \prod_{n=1}^{\infty}{\left(1 - \frac{1}{(2n)^2}\right)} = \frac{2}{\pi} $$
を得る。
ウォリス積分による証明
ウォリス積分と呼ばれる以下の積分を利用した証明方法もあり、これも面白い。
$$ I_m = \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\sin^m{x}dx} $$
被積分関数$\sin^m{x}$のグラフは次のような形である。
$m$が増大にするにしたがって、$\frac{\pi}{2}$の部分は尖り、$0$の部分は緩やかになる。
ウォリス積分は、このグラフと$x$軸が区間$[0, \frac{\pi}{2}]$で囲む(山の半分の)面積であると言える。
$m$が増大するのにしたがって、山の形は急峻になるので、面積は$0$に収束する。
後で見るが、ウォリス積分からウォリスの公式を導く際には、この面積自体ではなく、$I_m$と$I_{m+1}$の比に注目する。
なお、$\cos^m{x}$のグラフは次のような形になる。
区間$[0, \frac{\pi}{2}]$は同じ山の形の(右)半分であるから、ウォリス積分は、
$$ I_m = \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\cos^m{x}dx} $$
として定義してもよい。
さて、部分積分により、
$$ I_m = \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\sin^{(m-1)}{x}\sin{x}dx} $$
$$ I_m = [ \sin^{(m-1)}{x} (-\cos{x}) ]_0^{\frac{\pi}{2}} - \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{(m - 1) \sin^{(m-2)}{x} \cos{x} (-\cos{x}) dx} $$
$$ I_m = (m-1) \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\sin^{(m-2)}{x} \cos^2{x} dx} $$
$$ I_m = (m-1) \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\sin^{(m-2)}{x} (1 - \sin^2{x}) dx} $$
$$ I_m = (m-1) \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\sin^{(m-2)}{x}dx - (m-1) \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\sin^m{x} dx} $$
$$ I_m = (m-1) I_{m-2} - (m-1) I_{m} $$
$$ m I_m = (m-1) I_{m-2} $$
$$ I_m = \frac{m-1}{m} I_{m-2} $$
という漸化式が得られる。
$$ I_0 = \frac{\pi}{2} $$
$$ I_1 = 1 $$
に注意して、$m$が偶数の場合と奇数の場合で、上の漸化式を繰り返し適用すると、
$$ I_{2n} = \frac{(2n-1)!!}{2n!!} I_{0} = \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} \frac{\pi}{2} $$
$$ I_{2n+1} = \frac{(2n)!!}{(2n+1)!!} I_{1} = \frac{(2n)!!}{(2n+1)!!} $$
となる。
一方、$\{I_m\}$は単調減少列であるから
$$ 0 < I_{2n+1} < I_{2n} < I_{2n-1} $$
各辺を$I_{2n+1}$で割ると、
$$ 1 = \frac{I_{2n+1}}{I_{2n+1}} < \frac{I_{2n}}{I_{2n+1}} < \frac{I_{2n-1}}{I_{2n+1}} = \frac{2n+1}{2n} $$
よって、
$$ \lim_{n \to \infty} \frac{I_{2n+1}}{I_{2n}} = 1 $$
すなわち、隣り合う項の比は$1$に収束する。
$$ \frac{I_{2n+1}}{I_{2n}} = \frac {\frac{(2n)!!}{(2n+1)!!}} {\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!} \frac{\pi}{2}} = \frac{2}{\pi} \frac{(2n)!!(2n)!!}{(2n+1)!! (2n-1)!!} $$
なので、結局、
$$ \lim_{n \to \infty} \frac{2}{\pi} \frac{(2n)!!(2n)!!}{(2n+1)!! (2n-1)!!} = 1 $$
$$ \lim_{n \to \infty} \frac{(2n)!!(2n)!!}{(2n+1)!! (2n-1)!!} = \frac{\pi}{2} $$
となり、ウォリスの公式が得られた。
ウォリス積分の漸近
さて、もう少しウォリス積分について調べよう。隣り合う項の積を考える。
漸化式
$$ I_m = \frac{m-1}{m} I_{m-2} $$
より、
$$ (m+1) I_{m+1}I_{m} = (m+1) \frac{m}{m+1} I_{m-1} I_{m} = m I_{m} I_{m-1} $$
これを繰り返し用いると、結局、
$$ (m+1) I_{m+1}I_{m} = 1 I_1 I_0 = \frac{\pi}{2} $$
先の結果から、$I_{m+1} \sim I_{m}$であり、また$m+1 \sim m$なので、$mI_m^2 \sim \frac{\pi}{2}$
すなわち、
$$ \lim_{m \to \infty}{\sqrt{m}I_m} = \sqrt{\frac{\pi}{2}} $$
となり、
$$ I_m \sim \sqrt{\frac{\pi}{2m}} $$
がわかる。
ウォリス積分をグラフに表すと次のようになる。
補足
ウォリスの公式は、$(1+x)^{2n}$の$x^n$の係数がおおよそ$4^n/\sqrt{n\pi}$となることを意味している。
スターリングの公式という階乗(もしくはガンマ関数)の近似公式の証明に使われることがある。
また、ガウス積分を求めるのにも利用され、意外といろいろな応用がある公式である。