ウォリス積分を用いたガウス積分の証明
命題
次が成り立つ。
$$ \int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx = \sqrt{\pi} $$
証明
補題
$x \ne 0$において次が成り立つ。
$$ 1 - x^2 < e^{-x^2} < \frac{1}{1 + x^2} $$
補題の証明
$x \ne 0$において、
$$ e^x > 1 + x $$
である。
実際、右辺は左辺のテイラー展開の2次以降を打ち切った形であり、すなわち、$x=0$における$y = e^x$の接線を表している。
$y = e^x$は2回微分しても$e^x > 0$であるから、下に凸ゆえ、$y = e^x$は接線$y = 1 + x$の上にある。
したがって、 $ e^x > 1 + x $が成り立つ。
この不等式の$x$に$-x^2$を代入することで、$1 - x^2 < e^{-x^2}$が得られる。
また、$x$に$x^2$を代入して、逆数を取ることで、$e^{-x^2} < \frac{1}{1 + x^2}$が得られる。
ウォリス積分の置換
ウォリス積分
$$ I_m = \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\sin^m{x}dx} $$
を考える。
$y=\cos{x}$による置換
$I_{2n+1}$を$y=\cos{x}$で置換積分すると、
$$ I_{2n+1} = \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\sin^{2n}{x}\sin{x}dx} = \int_{1}^{0}{(1 - y^2)^n(-\frac{dy}{dx})dx} = \int_{0}^{1}{(1 - y^2)^ndy} = \int_{0}^{1}{(1 - x^2)^ndx} $$
$y=\cot{x}$による置換
$I_{2n-2}$を$y=\cot{x}$で置換積分すると、
$$ I_{2n-2} = \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\sin^{2n}{x}\frac{1}{\sin^2{x}}dx} = \int_{\infty}^{0}{\frac{1}{(1 + y^2)^n}(-\frac{dy}{dx})dx} = \int_{0}^{\infty}{\frac{1}{(1 + y^2)^n}dy} = \int_{0}^{\infty}{\frac{1}{(1 + x^2)^n}dx} $$
ガウス積分の評価
$$ I = \int_{0}^{\infty}e^{-x^2}dx $$
とおく。$x = \sqrt{n}y$で置換積分すると、
$$ I = \int_{0}^{\infty}e^{-ny^2} \sqrt{n}dy = \sqrt{n}\int_{0}^{\infty}e^{-nx^2} dx $$
補題から、
$$ \sqrt{n}\int_{0}^{1}(1-x^2)^n dx < \sqrt{n}\int_{0}^{1}e^{-nx^2} dx < I < \sqrt{n} \int_{0}^{\infty}\frac{dx}{(1+x^2)^n} $$
最右辺と最左辺はウォリス積分を置換積分したのと同じ形であるから、結局、
$$ \sqrt{n}I_{2n+1} < I < \sqrt{n}I_{2n-2} $$
である。
ウォリスの公式 で見たように、
$$ \lim_{m \to \infty} \sqrt{m}I_{m} = \sqrt{\frac{\pi}{2}} $$
なので、
$$ \sqrt{n}I_{2n+1} = \frac{\sqrt{n}}{\sqrt{2n+1}}\sqrt{2n+1}I_{2n+1} \to \frac{1}{\sqrt{2}} \sqrt{\frac{\pi}{2}} = \frac{\sqrt{\pi}}{2} (n \to \infty) $$
$$ \sqrt{n}I_{2n-2} = \frac{\sqrt{n}}{\sqrt{2n-2}}\sqrt{2n-2}I_{2n-2} \to \frac{1}{\sqrt{2}} \sqrt{\frac{\pi}{2}} = \frac{\sqrt{\pi}}{2} (n \to \infty) $$
よって、
$$ I = \frac{\sqrt{\pi}}{2} $$
積分区間の調整
被積分関数は偶関数であるから、
$$ \int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx = 2I = \sqrt{\pi} $$
よって示された。