フーリエ変換の複数の定義について
フーリエ変換の定義
フーリエ変換の定義は、書籍によって微妙に異なっている。
フーリエ変換を扱うときにはどうしても、$\sqrt{2 \pi} \fallingdotseq 2.5$の定数倍がついて回るので、それをどこに押し付けるかというので、流儀があるのである。
ここでは(よく使われると思われる)3つの定義について述べる。
1. フーリエ変換の定義式に定数を含めない流儀
この定義は以下のようになる。
$$ X(\omega) = \int_{-\infty}^{\infty}{x(t)e^{-i\omega t}dt} $$
この定義では、フーリエ変換の定義式には一切定数が出てこない。 そのかわりに他のところ(例えばフーリエ逆変換)に定数を押し付ける。
入力を時間領域の信号とすると、出力は角周波数領域の信号となる。
私は、基本的にはこの流儀を取る。(覚えやすいので)。
2. 角周波数ではなく(通常の)周波数領域に変換する流儀
この定義は以下のようになる。
$$ X(f) = \int_{-\infty}^{\infty}{x(t)e^{-2 \pi i f t}dt} $$
この定義では、積分の中に定数を含める。
入力を時間領域の信号とすると、出力は(通常の)周波数領域の信号となる。
通信工学などの分野の本ではこの流儀が用いられることがある。
実際、電波や音の周波数に言及するときは、何Hzという言い方をし、何rad/sという角周波数の言い方はしないので、これは自然な表し方のようである。
3. 角周波数を用い、積分の外に定数をつける流儀
この定義は以下のようになる。
$$ X(\omega) = \frac{1}{\sqrt{2 \pi}}\int_{-\infty}^{\infty}{x(t)e^{-i\omega t}dt} $$
この定義では、積分の外に定数を含める。
入力を時間領域の信号とすると、出力は角周波数領域の信号となる。
1の定義を定数倍しただけであるが、これにより、フーリエ逆変換とも対称的になる。
数学の本ではこの流儀が用いられることがある。
パーセバルの定理
フーリエ変換の重要な定理に、パーセバルの定理(Parseval’s theorem)がある。
定義1, 2, 3におけるパーセバルの定理は、それぞれ次のようになる。
関数$x(t)$, $y(t)$の定義1, 2, 3におけるフーリエ変換をそれぞれ、$X_1(\omega), Y_1(\omega), X_2(f), Y_2(f), X_3(\omega), Y_3(\omega)$とする。このとき、
$$ \int_{-\infty}^{\infty}X_1(\omega)Y_1^*(\omega)d\omega = 2 \pi \int_{-\infty}^{\infty}x(t)y^*(t)dt $$
$$ \int_{-\infty}^{\infty}X_2(f)Y_2^*(f)df = \int_{-\infty}^{\infty}x(t)y^*(t)dt $$
$$ \int_{-\infty}^{\infty}X_3(\omega)Y_3^*(\omega)d\omega = \int_{-\infty}^{\infty}x(t)y^*(t)dt $$
となる。
定義1の場合にのみ定数がついている。
このことから、定義2, 3の場合、フーリエ変換はユニタリ性を持つが、定義1を採用した場合にはフーリエ変換はユニタリ変換ではなくなるということがわかる。
ユニタリ変換は2つのベクトル空間で長さを保つため便利な性質であるため、この性質を利用した議論を行いたい場合は、定義2, 3を採用するのが良い。