フーリエ変換のself-reciprocal functionの一般論
フーリエ変換の不動点
以下の2つの記事でフーリエ変換のself-reciprocal functionの例を挙げた。
次の2つである。
$$ \exp{[-\frac{t^2}{2}]} $$
$$ \frac{1}{\sqrt{|t|}} $$
これら2つの関数はフーリエ変換で(定数倍を除いて)同じ関数に写される。
このような関数は、フーリエ変換における不動点とみなせ、フーリエ変換におけるself-reciprocal functionというのであった。
このような関数は他にも色々あるのだが、この記事ではこのような関数に関する一般論を述べることにする。
注意事項として、この記事では、(他の記事と異なり)フーリエ変換の定義として次を用いる。
$$ \mathcal{F}[f](\omega) = \frac{1}{\sqrt{2 \pi}}\int_{-\infty}^{\infty}{f(t)e^{-i\omega t}dt} $$
これは、フーリエ変換の複数の定義の3番目の定義であり、フーリエ変換がユニタリ変換となるようにするために(定数倍を考えないようにするために)こうする。
$$ \hat{f}(\omega) = \mathcal{F}[f](\omega) $$
とも書くことにする。
フーリエ変換の繰り返し適用
ある関数$f(t)$にフーリエ変換を繰り返し適用することを考える。
1回のフーリエ変換により、$f(t)$は次のように写される。
$$ \mathcal{F}: f(t) \mapsto \hat{f}(\omega) $$
ここで、
$$ \mathcal{F}[f](\omega) = \frac{1}{\sqrt{2 \pi}}\int_{-\infty}^{\infty}{f(t)e^{-i\omega t}dt} $$
について、$s=-t$で置換積分を行うと、
$$ \mathcal{F}[f](\omega) = \frac{1}{\sqrt{2 \pi}}\int_{s=\infty}^{-\infty}{f(-s)e^{i\omega s} (-ds)} = \frac{1}{\sqrt{2 \pi}}\int_{-\infty}^{\infty}{f(-s)e^{i\omega s} ds} = \mathcal{F}^{-1}[f(-t)] $$
最後の式変形はフーリエ逆変換である。
このことから、
$$ \mathcal{F}^2[f](t) = f(-t) $$
がわかる。続いて、
$$ \mathcal{F}^3[f](\omega) = \hat{f}(-\omega) $$
であり、
$$ \mathcal{F}^4[f](t) = f(-(-t)) = f(t) $$
となり、4回目の適用で元の関数に戻ることがわかる。
このように4回の適用でもとに戻るような操作は数学でよく出てくる。たとえば虚数単位$i$をかけるとか、三角関数を微分するとかである。
図式的にまとめると次のようになる。
話がそれたが、ここで得た重要な式は
$$ \mathcal{F}^4 = 1 $$
特に偶関数に絞って考えれば、
$$ \mathcal{F}^2 = 1 $$
である。
フーリエ変換の固有値
フーリエ変換は線形変換であるから、固有値を考えるのは自然なことである。
$\lambda$をフーリエ変換$\mathcal{F}$の固有値、$f$を$\lambda$に対応する固有ベクトル (この場合、これは実際には関数であるから、固有関数 eigenfunction とも呼ばれる)とすると、 定義により次が成り立つ。
$$ \mathcal{F}[f] = \lambda f $$
これを4回繰り返すと、
$$ \mathcal{F}^4[f] = \lambda^4 f $$
であるが、一方先程の考察から、
$$ \mathcal{F}^4[f] = 1[f] = f $$
よって、
$$ \lambda^4 = 1 $$
したがって、
$$ \lambda = 1, i, -1, -i $$
あとで例を示すが、$\lambda = 1, i, -1, -i$には
$$ \mathcal{F}[f] = \lambda f $$
を満たす非零の関数$f$が存在するので、実際に$1, i, -1, -i$は$\mathcal{F}$の固有値である。
そして、これらの固有値に対応する固有空間をそれぞれ、$W_1, W_i, W_{-1}, W_{-i}$とすると、これらは直交する。
実際、
$f \in W_a$, $g \in W_b$とすると、パーセバルの定理により
$$ f \cdot g = \mathcal{F}[f] \cdot \mathcal{F}[g] = (af) \cdot (bg) = a\bar{b} (f \cdot g) $$
となるが、$a \ne b$のとき、$a \bar{b} \ne 0$であるから、$f \cdot g = 0$が導かれる。
以上の議論により、$f \in L^2(\mathbb{R})$は一意にこれらの固有空間への分解
$$ f = f_1 + f_i + f_{-1} + f_{-i} $$
を持つことがわかる。この式にフーリエ変換を適用していくことで、次の式を得る。
$$ \begin{pmatrix} 1 & 1 & 1 & 1 \\ 1 & i & -1 & -i \\ 1 & -1 & 1 & -1 \\ 1 & -i & -1 & i \end{pmatrix} \begin{pmatrix} f_1 \\ f_i \\ f_{-1} \\ f_{-i} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} f \\ \mathcal{F} [f] \\ \mathcal{F}^2 [f] \\ \mathcal{F}^3 [f] \end{pmatrix} $$
これを解くことで、上の$f_1, f_i, f_{-1}, f_{-i}$は
$$ \begin{pmatrix} f_1 \\ f_i \\ f_{-1} \\ f_{-i} \end{pmatrix} = \frac{1}{4} \begin{pmatrix} 1 & 1 & 1 & 1 \\ 1 & -i & -1 & i \\ 1 & -1 & 1 & -1 \\ 1 & i & -1 & -i \end{pmatrix} \begin{pmatrix} f \\ \mathcal{F} [f] \\ \mathcal{F}^2 [f] \\ \mathcal{F}^3 [f] \end{pmatrix} $$
とフーリエ変換の繰り返し適用の線形結合で表せる。
ここで、$f_1$成分は固有空間$W_1$への射影であって、self-reciprocal functionである。
フーリエ変換の固有値$1, i, -1, -i$に対する固有関数の例
固有値$1$に対する固有関数の例
これはself-reciprocal functionそのものであり、既に冒頭に挙げた
$$ \exp{[-\frac{t^2}{2}]} $$
が典型例である。
周波数領域での微分
フーリエ変換の性質の一つで重要なものに周波数微分公式
$$ \mathcal{F}[t f(t)] = i \frac{d \hat{f}(\omega)}{d\omega} $$
がある。これは時間領域で$t$をかけることが、周波数領域では微分となって現れることを主張する。
これは次のように計算することで得られる。
$$ \frac{d \hat{f}(\omega)}{d\omega} = \frac{d}{d \omega} \frac{1}{\sqrt{2 \pi}} \int_{-\infty}^{\infty}{f(t) e^{-i \omega t}dt} = \frac{1}{\sqrt{2 \pi}} \int_{-\infty}^{\infty}{f(t) \left( \frac{d}{d \omega} e^{-i \omega t} \right) dt} = \frac{1}{\sqrt{2 \pi}} \int_{-\infty}^{\infty}{f(t) \left( -it e^{-i \omega t} \right) dt} = -i \frac{1}{\sqrt{2 \pi}} \int_{-\infty}^{\infty}{tf(t) e^{-i \omega t} dt} = -i \mathcal{F}[tf(t)] $$
以下ではこの公式を利用して、$t^n \exp{[-\frac{t^2}{2}]}$のフーリエ変換を計算する。おおむね、これらが固有関数の例を与える。
$t^n \exp{[-\frac{t^2}{2}]}$のフーリエ変換
$n=1$
$$ \mathcal{F}\left[t \exp{[-\frac{t^2}{2}]}\right] = i\frac{d}{d\omega} \exp{[-\frac{\omega^2}{2}]} = -i\omega \exp{[-\frac{\omega^2}{2}]} $$
$n=2$
$$ \mathcal{F}\left[t^2 \exp{[-\frac{t^2}{2}]}\right] = i\frac{d}{d\omega} \left( -i\omega \exp{[-\frac{\omega^2}{2}]} \right) = (1 - \omega^2) \exp{[-\frac{\omega^2}{2}]} $$
$n=3$
$$ \mathcal{F}\left[t^3 \exp{[-\frac{t^2}{2}]}\right] = i\frac{d}{d\omega} \left( (1 - \omega^2) \exp{[-\frac{\omega^2}{2}]} \right) = i(-3\omega + \omega^3) \exp{[-\frac{\omega^2}{2}]} $$
固有値$-i$に対する固有関数の例
上の$n=1$における計算結果から、
$$ t\exp{[-\frac{t^2}{2}]} $$
は固有値$-i$に対する固有関数となっていることがわかる。
固有値$-1$に対する固有関数の例
上の$n=2$における計算結果を直接利用することはできないが、ほぼ$n=2$のときが答えである。
$$ f(t) = (t^2 + \alpha) \exp{[-\frac{t^2}{2}]} $$
のフーリエ変換を考えると
$$ \hat{f}(\omega) = -(\omega^2 - (1+\alpha)) \exp{[-\frac{\omega^2}{2}]} $$
であるから、$\alpha = -(1 + \alpha)$となるように$\alpha$をとってやれば、$\hat{f} = -f$となる。
方程式を解けば$\alpha = -\frac{1}{2}$である。よって、
$$ f(t) = (t^2 - \frac{1}{2}) \exp{[-\frac{t^2}{2}]} $$
は固有値$-1$に対する固有関数である。
固有値$i$に対する固有関数の例
上の$n=3$における計算結果を直接利用することはできないが、ほぼ$n=3$のときが答えである。
$$ f(t) = (t^3 + \beta t) \exp{[-\frac{t^2}{2}]} $$
のフーリエ変換を考えると
$$ \hat{f}(\omega) = i(\omega^3 - (3+\beta) \omega) \exp{[-\frac{\omega^2}{2}]} $$
であるから、$\beta = -(3 + \beta)$となるように$\beta$をとってやれば、$\hat{f} = if$となる。
方程式を解けば$\beta = -\frac{3}{2}$である。よって、
$$ f(t) = (t^3 - \frac{3}{2}t) \exp{[-\frac{t^2}{2}]} $$
は固有値$i$に対する固有関数である。